これがイチゴ…!
ムスメが、初めてイチゴを食べた。
いや、イチゴと出逢った。といったほうがいいかもしれない。
実家の工房で仕事をすべく、ムスメを連れて赴いたところ、
厨房の母から、
「イチゴあるからマゴちゃんに食べさせな。」
というお誘いを受けた。
どれどれとイチゴを手にとってみると、
一粒が5~6cmはあろうかというずいぶん大粒なモノで、
いわゆる一般的なイチゴの逆三角形ではなく、
生気のおもむくままにみなぎらせた積乱雲のような形をしており、
赤々と張り詰めた光沢を種粒が穿っている。
イチゴには明るくない目にも、これは名うての一品だろう。
と想像できた。
一粒を手に取り、ムスメの口元に運ぶ。
しゃくりとかじってみて、舌で果肉をつぶしながら考えている。
もう一口、じょぶり。
間髪いれずもう一口。
だんだんと、一口の大きさが増してゆく。
普段だと、気に入った食べ物の時は、
口を尖らせて片手を挙げ、
「おっ!」
と感嘆の声を上げるのがムスメの癖なのだけれど、
初イチゴの衝撃は、そんな余裕すら吹き飛ばし、
身じろぎ一つせず、眼の焦点さえ怪しくなって、
とにかく、全身の神経を味覚に集中させ、
一滴も漏らすまいとイチゴに取り組んでいたのだった。
そして、自分の顔の1/3はあろうかというイチゴを、
瞬く間に二つお腹に収めると、
感激の心的負担か、許容量を超えた満足が引き起こした生理現象か、
スイッチが切れたかのように、コトリと眠ってしまった。
あとから調べてみると、
そのイチゴは一粒に換算すると数百円もするような、
いわゆる高級品種というシロモノらしかった。
図らずも、イチゴとの最高の出逢いを果たしたムスメ。
昏々と眠る寝顔に、
「いいかい、これは特殊なイチゴだからね。ウチ(トシ家)ではまず食べられないものだから、このイチゴを基準にしちゃいけないよ。」
と、懇願にも似た諭説を講じたことは言うまでもない。
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