たらい回し報道と産む責任
最近、『妊婦さんのたらい回し』がよく報道されます。
こういったことがニュースで大々的に伝えられるキッカケとなったのは、
奈良県の事例だったと思いますが、
あの件は、分娩中に母体が身体的異常を発症し、
それを医師が誤診して対応が遅れ、そこから「たらい回し」に遭って、
とても悲しい結末に至ってしまった…ということだったと思います。
でも、最近の『たらい回し』の報道は、
『たらい回し』という共通項だけをやたらに強調して、
「医師の責任放棄」、「医療制度の問題」、「救急の怠慢」
などと闇雲に叩くために「使われている」ようにも見えます。
よく報道の内容を見てみると、
「妊婦には掛かりつけの病院が無かった。」
「一度も受診歴が無かった。」
という事例がかなり多いではないですか。
それでは同じ『たらい回し』でも、問題の本質はまったく違ってきます。
そもそも、「掛かりつけ医師がいない」というのがおかしい。
妊娠が分かったら、普通は産婦人科にかかって、定期検診を受けます。
(「気づかない」ということはまずないと思います。)
それで自然と掛かりつけの病院は出来ます。
もし、最初に受診した産婦人科が分娩できないところでも、
分娩可能な産院を紹介されます。
そして必ずこう言われます。
「一刻も早く分娩予約を取ってください!」
今、分娩可能な病院というのは本当に少なくて、
ウチも予定日の半年前に予約したのに、ギリギリだったくらいなのです。
半年前から準備してようやく長蛇の列の最後尾にねじ込んでもらえるものを、
予約もせずに突然産気づいたからと言って横入りなど出来るわけがありません。
きちんと並んでいる人たちだって、自分と子供の命がかかっているのですから。
まして検診を受けずに胎児の経過も状態も一切分からないヒトを
受け入れる病院など、本来あるわけがないのです。
ただでさえ訴訟リスクが高いといわれる産婦人科医師に、
そんな無理難題を抱えてくる妊婦を受け入れろというほうが無茶です。
そこにきてマスコミによるバッシング、
それに乗じた誤訴、乱訴まであっては、
産科医があまりに気の毒。
それでもこんなにも割に合わない仕事を辞めずにいるのは、
地位でも名誉でも銭金でもなく、
自分が辞めたらどれだけの妊婦さんが困るか。
という医師としての責任感からだと思いますよ。
しかし、中には本当にお金が無くて受診出来ない人もいると思います。
なにしろ妊娠の定期検診は保険対象外なので、一回の受診で5,000円から多いときは15,000円ほどが吹っ飛びます。
それが月に一度、予定日が近くなると月に2~3度、
臨月は毎週になります。
けっこう負担はデカイです。
だいたい、なんで妊婦検診が保険対象外なのでしょう。
あれだけ保険料を取っておいて、それはないだろう…と思ってしまいます。
(特に、つい最近在住地の保険料が変わり、金額が4倍超に跳ね上がったので余計に腹立たしい)
そりゃあ分娩費用分に出産一時金として35万円ほど出ますが、
「普通に」分娩したって、入院費やらナニやらで40万円は軽くかかるわけで、
結局足し前足し前…。
子供は国にとっても得がたい財産なのだから、
少子化が問題として認識出来ているのなら、
せめて出産費用くらい無料にしてもいいのでは?
と思います。
以上、相方(嫁さん)の検診から分娩まで一通り立ちあった人間として、
「マスコミはもう少しバランスを取った報道をしたほうがいいのでは?」
「妊婦さんにも、ちゃんと産む責任ってものがあるよね。」
「国も、少子化少子化って言うなら、産みやすい環境を整えてくださいな。」
ということを主張してみました。
ではまた明日。
追記:
読者様からメールでご意見をいただきました。 本文中では、敢えて『経済的理由』と包括して書きましたが、 払えるけど払いたくないから受診せず、 出産費用さえ踏み倒すような妊婦と、 やむにやまれない事情があって、 受診できない妊婦さんをいっしょくたにしがちな風潮も問題だと思います。
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